百白百首11 呼び名から生まれたメルヘン 

濁音を持たないゆえに風の日のモンシロチョウは飛ばされやすい  杉﨑恒夫「パン屋のパンセ」

うすく白い羽が特徴のモンシロチョウ。濁点をつけると「もんじろちょう」。中村敦夫さんが演じたクールな渡世人や清水港(しみずみなと)の侠客を思い起こさせる音色になり、これなら強い風が吹いてもびくともしないでしょう。

風の強い日、思うように花のみつにありつけずふらふらしている小さなモンシロチョウを見たとき、作者はほんとうに吹けば飛んでしまう存在に、生きることのはかなさを感じたのかもしれません。そのはかなさを人に伝えるため「木枯し紋次郎や清水次郎長とちがって濁音を持っていないからだ」と冒頭で原因を特定しました。

科学的、論理的には原因と結果の関係になりえないことですが、この歌をよむと、そういうこともあって不思議ではないというか、それこそが真実と思わせます。陽気の良い日にはふわふわと花たちを楽しそうにめぐるモンシロチョウの優雅さもクローズアップされます。モンシロチョウという呼び名・言葉から生まれたメルヘン。

☆白の力を借りて自分の思いを表現した歌を「百白百首」のコーナで紹介しています。