ちくま未来新聞連載「夢咲く文」

さらしな堂がある長野県千曲市の地域新聞「ちくま未来新聞」(月刊)で書いている連載「思いを形に 夢咲く文」です。同紙にはWEB版もあります。https://newspaper.ckm-mirai.org/

 第7回 なぜ今伝えたい? 過去は新しくなる

伝えたいと思うのは、理由があるからです。なぜ今伝えたいと思ったのか理由を考えましょう。

新聞の読者投稿欄が参考になります。書いた理由が読者に届きやすい作文になっています。ニュースになった最近の事がらについての投稿は、書いた理由が入りやすいものですが、過去の経験やエピソードの投稿もよく載っています。書いた人が意識しているかは別にして、昔の話でも不特定多数の読者に読んでもらいやすい表現になっています。

昔のことを昔のこととして書いただけでは、読み通してもらうことは難しいです。

一番印象に残ったことを、その理由と一緒に書けば読書感想文になると、学校に通っていたころ、知りました。この方法にしたがうと、確かに一つの作文ができあがりました。なぜ印象に残ったのか書くことは、自分の内側を見つめることです。おのずと、その時点での自分の「今」を書くことになります。

過去の経験を書くときも、「今」を書くようにしましょう。「〇〇について書きたくなった理由は…」などと書き始め、綴ってみましょう。昔の経験を読者に伝わるように書くことは、過去を新しくすることです。過去が新しくなると、気力が出ます。血のめぐりもよくなって、若返ります。(2023年新春号)

 第6回 ひとつのことをたっぷり たまれば自分史

読んでもらえる文章にするには、ひとつのことをたっぷり書くことが大事です。いちばん伝えたいことに狙いを定めましょう。とはいえ、定まればすぐにたっぷり書けるわけではないので、心をゆるしておしゃべりができる人がいれば、その人に話してみましょう。おしゃべりのリズムの中で、自分では気づかなかった思いや言葉、言い回しが見つかることがあります。

「たっぷり書く」というのは「たくさん書く」と言う意味では必ずしもありません。的確な表現や詩的に表現されている言葉など、短い文章やひと言でも全体が伝わるような作文になっていれば、それはたっぷり書いたということです。

新聞記者の仕事を始めたころ、「書きたいこと(の核)は何だ?」と上司のデスクから幾度も聞かれました。取材してきた内容や感じたことを話すと、デスクから「そのことを書けばいい」とよく言われました。毎日読む新聞の記事の中で、心に残ったりする記事の多くは、記者が最も伝えたいひとつのことがたっぷり書かれたものです。

伝えたいことの順番は、時間がたつと変わることがあります。そのときどきに、今いちばん伝えたいことをたっぷり書きましょう。それがたまれば本、自分史になります。(2022年12月1日)

 第5回 気になった言葉をメモ、育ち始める文章

話していて「その話おもしろいね」「その言い回しいいね」と言われたことのある人は多いと思います。しかし、あらためて文章にしようとしても、なかなか作文できないものです。でも、他人が評価してくれたということは、伝わったということです。おしゃべりのリズムが伝えたい核を引きだすことがあります。

話を聞いてくれた人が「こういうことだな」とうまい言葉で要約してくれることがあります。その言葉をメモし、気に留めておくといいと思います。文章が育ち始めます。話していて自分で「いいな」と思った言葉も同じようにしてみてください。

わたしは千曲市が「月の都」で日本遺産になったのを機に、「月の都」という言葉が歴史的にどのように使われてきたか調べてきました。最初に登場するのは平安時代の「竹取物語」で、天体の月にある都を指しており、次は「源氏物語」で、月が美しい京の都の意味で使われていました。

ある会合でそのことを話したら「月の都が宇宙から地上に降りたんだ」と言う人がいました。この「地上に降りた」という言葉で、月の都に寄せられた人びとのイメージの積み重なりと、月の都が日本遺産になる流れがよく見えてきました。そのことも作文したいと思います。(2022年11月1日)

 第4回 「あのね、おかあさんー」にある作文の原理 

子どもに作文を書かせるとき、「あのね、おかあさんー」という語り掛け口調で書き始めさせる方法があります。この語り掛けが、子どもに生じるのは、伝えたいことの核に子どもがぶつかっている証拠で、とにかく語り始めて(書き始めて)もらうことで、その核に到達し、伝えたいことの核を表現させるという指導方法です。

大人の作文も原理は同じです。「このことについて書きます」と導入で宣言し、その内容を詳しく書いて展開します。つまり、導入と展開の二つの部分があれば、一つの作文は成立します。大人の場合は、「なぜこのことを書こうと思ったのか」について書き込むことをおすすめします。読者をだれに想定するかにかかわらず、なぜ伝えたいのかについての思いが具体的に書かれていると、作文の訴える力が違ってきます。

学校などで教わった「起承転結」という文章作法を意識して従おうとすると、なかなか書きだせません。導入部分がはっきりしていれば、少し違った角度の内容にする「転」や、まとめ・結論にあたる「結」も、自分の知らないうちに書けてしまったりするものです。最初から決めておく必要はありません。書くハードルを低くしてほしいと思います。(2022年10月1日)

  第3回 「です」「ます」調だと難しくは書けない

たくさんの人、不特定多数の人に読んでもらいたいときは、「です」「ます」調で書くことをおすすめします。「です」「ます」は語り掛け口調なので、難しい言葉や表現になりにくいものです。「だ」「である」調だと、自分でもよく分からない言葉なのに使えてしまったり、上から目線にもなったりします。

ラジオでは、局のパーソナリティーと商品の宣伝をする人や最近話題になっている人との掛け合いがあります。この掛け合いは事前に「です」「ます」調で、パーソナリティーの質問と出演者の回答という構成の原稿になっているケースが多く、私も「さらしな」の地名力を地域の方々と発信する活動を始めたころ、出演したことがあります。わたしが書いたことをQ&A形式で再構成してくれた番組ディレクターの原稿は、とても分かりやすいものでした。

ラジオだけでなく、テレビ用の記事を作ったこともあります。どんなニュースでも長くないことが鉄則です。漢字の熟語はなるたけ使わないようにしました。「です」「ます」調の原稿はニュースのポイントがはっきりし、切れ味がいい文体だと思いました。このニュースのポイントが、わたしが視聴者に伝えたいことの核に当たる部分でした。(2022年9月1日)

 第2回 不完全でも「書き切った」感覚を大事に

伝わる文章を作るのに協力してくれる人は、自分で見つけようとしないとなかなか見つかりません。とはいえ、見つかれば書けるというものでもありません。まずは書き始めることが肝心です。

書き始めることができれば、思いの核や読んでもらいたい読者層は明確にはなっていなくても、自分の中には存在しています。

書き出しの文章とか、全体の構成とか、はじめにきっちり決める必要はありません。「さらしな」の地名力を紹介する「更級への旅」を書くとき、わたしは書き始めたら、とにかく最後まで書き切ることを心がけました。最終的に仕上がる文章の量には関係ありません。とにかく「伝えたいことは書いた(書けそう)」という達成感があるところまで行くようにしました。

固有名詞の確認や文献の引用とか、文法、取り上げるエピソードとか、そういうのは後で整理したり、膨らませたりすればいいことです。長い文章を想定しているときこそ、短い文章でとにかく書き切ったとなった方がいいです。不完全な文章でも「書き切った」感覚があれば、思いの核に確かにぶつかったということです。「きょうはここまで。続きはまた明日」という書き方は、思いの核にぶつかりにくいと思います。(2022年8月1日)

 第1回 伝えたい核は?読んでもらいたい人は?

伝えたい思いはあるけれど、文章にまとまらない。そういう方の相談には二つの質問をします。「伝えたい思いの核はなんですか」「その思いはだれに伝えたい(読んでもらいたい)のですか」

伝えたい思いの核と読者の明確化は、伝わる文章を作るときに欠かせません。思いの内容と読んでもらいたい人は、二つの質問を自らに交互に投げかけながら、絞っていきます。思いの核が分かっていても、読んでもらいたいのが子どもや孫であれば、書く材料や文体も変わってきます。両方の問いを自分に課すことで、何をどう書けばいいか、スタートラインに立つことができます。読者が定まると、伝えたい内容もはっきりすることがあります。

こうした作業を一人でやるのは訓練が必要です。わたしは新聞記者の仕事を通して、基本、一人でやることができるようになりました。それには上司のデスクという文章を作るときの相談、指導役の手ほどきがありました。

伝わる文章は訓練をすれば書けるようになります。訓練に大事なのは、思いを聞いて、核の部分をつかまえるのに協力してくれる人、書いたもの読んで率直で的確な感想を言ってくれる人、そして表現を整えてくれる人です。一人で思いの核を知ることは簡単ではありません。いくつか書き上げていくと、一人でも伝わる文章が作れるようになります。

自治体合併による更級郡の消滅(2005年)が残念で、「さらしな」の地名の魅力を紹介する「更級への旅」という瓦版を自分のホームページで20年近く続けています。さらしなの超一級ブランド力を伝えたいという思いからです。新聞記者の仕事から学んだ作文技術も踏まえ、伝えたい思いを伝わる文章にするにはどうしたらいいか私流の方法を書いていきます。(2022年7月1日)