心がけ33 説得力のある指摘なら書き直す

 記者の原稿を点検し、記事に仕上げるデスクの仕事を何年かしました。届いた原稿を読むときにいちばん心がけていたのは、まず面白かいか面白くないか、いいか悪いかという判断でした。面白かったり、良かったりすればあとは完成させるだけです。デスクの仕事は完成に導くための助言や指示で、記者はそれに納得すれば書き直すのですが、駆け出しや若手の場合は、なかなか困難なときがあります。
 「原稿のここの部分が面白いからもっと厚めに詳しく」とか「この表現をもっと的確に」とか指摘するのですが、指摘したところだけ書き直してもだめで、書き出しや構成の変更が必要なときがあります。「指摘はもっともだ」と思っても、全体を書き改めるというのは駆け出しのころは至難の業で、結局デスクに全部書き改めてもらうことが、私も幾度もありました。
 いまになって振り返れば、不完全な原稿であれ、デスクに面白いと思ってもらえたということは、伝えたいことの核心の部分はデスクに届いたということです。あとは、それがちゃんと伝わるように表現すればいいということでした。デスクの書き改めがなくなるには、たくさん書くことが必要でした。こんなふうに書きだせば伝わる文章になるんじゃないかという感覚が身につきました。
 苦心して書き上げた文章であればあるほど、他人の手が入ったり、削られたりするのは屈辱です。そう手直しすることに納得できるかどうかが肝心です。助言や指示に説得力があるかどうか。あると思えれば従う。その方が伝わる文章に仕上がると思います。