そのときにいいなあと思って書き写し、その後、新聞のスクラップ帳の表紙の裏に大きく筆ペンで書いた短歌があります。
老い二人乗せて師走の町へ行く娘は速度ゆるめ虹見よと言ふ 中野市 塚田幸子
年の暮れ、山あいの集落に住んでいる老親2人のことが心配になって、街に住んでいる娘さんが車で実家に寄り、買い物をかねて街のにぎわいに触れ、元気になってもらおうとした―というイメージが立ち上がりました。車窓の先にかかった大きな虹とそれを見つめる、それまではしょぼくれていた2人の老人…。
我流の読み取りで、実際は違うところがあるかもしれませんが、年配の作者が、娘と虹のちからで少し元気になり、夫との間に良い話題が生まれたことは確かだと思います。文章でそのことを詳しく説明するのではなく、そのように読み手に想像させる短歌によって、作者の思いは届いたということになるのかもしれません。
書き写してから約20年、この短歌がふたたびよみがえってきたのは、自分の年齢や境遇のせいもありますが、57577というリズムと言葉の調べの心地よさが大きいです。