さらしなの歌2

 2023年10月までの歌は「さらしなの歌1」に掲載しています。2022年冬から23年春にかけて作った歌は編集して、フォト歌集「ひかりのキャンバス」を発行。

閉められた病室の窓のつくりだすこちらとあちらの二つの世界
リサイクルショップで買った揺り椅子が重心移動の至福をくれる
左手で書いた名前は書く前のわたしがほとんど知らない私
湯気のぼる風呂の蛇口に口を寄せのどを通ったあの水はるか
たっぷりのお日さま吸ったお布団はふわふわふかふか鳥さん感謝
わたしらも叫びたいときあるんです春はもうそこ春はもうそこ
取れた角日本海へと流れこみ錆びた兵器にまとわりつくか
そうなのか月がまるくて白いのは雲がわが身を差し出すからだ
わたしなら少し明るくできるかも雪の照明掲げておきます
広重が浮世絵にしてくれたっけ良い月出たからみんなで行こう
人間の足跡ではない おじさんは「ドーナツてるの」と指さしにけり
この指で立っているんだわたしには絶対つかまえられない訳だ
お日さまが差そうとするとぽつぽつと灯り始める雪ほたるかな
まだ間に合うはじめの一筆入れるのは二本の足で歩く生き物
集まって夜通し寒さしのぐことできたのだから起こさずにおく
海原も川面も同じだれだって進んでいけば波が立ちます
このへんは長寿うやまう里だからみんなで甲羅を干しても平気
足元はダンスの後のたたずまい抱えきれないほどの花束
山上にわたしが始まる字があれば大腿筋と一緒に向かう
がんばって開拓してねお日さまは力を合わせ届けてあげる
いつだってはっきり見えはしないけどスクロールすれば止める一枚
けさも雪つもってなくて楽だけどお水たりるかにゃんか心配
斎場をあとにして見る姨捨の異名持つ山いつも神々しい
わたしたちだって負けないこんなにも広い空なら超特急
泉にはまことの姿が映るから見ている者も見られてますよ
孤高の木そう呼びたくはなったけど1本なのか5本なのか
車など恐れはしない恐れるはいのちが無駄になっちゃうことだ
いつもより多く仲間を連れてきてみんなで食事処をさがす
身の丈を知るのはなかなか難しく測ればギネス記録の身長
まだ少し残っているな棚にある切り餅焼いてあしたははぜんざい
目の前の世界を照らしている光りたくさんの色でできてる世界
倉島玲子展 ー絵が語ること…。Nostalgic Scenesー @千曲市アートまちかど ~2025年2月9日
けさはここみんなで食べる朝ごはん食べたいものを食べられるだけ
太陽が地球に届けるエネルギーぬくもり変換ここからはじまる
あの尾根の滑降さぞかし気持ちいい翼があるから間に合うきっと
一本のたすきを洗い上げました暮れの掃除に使ってください
まだ夢の中でも3人集まって浴びたい関東いちばん日
ジャイアントインパクトにより飛び散った地球素材の放出口
渡りゆくわたしにずっと付いてくる太陽の子の人懐っこさ
にっぽんの最長河川は白とりの羽ばたきを得て滞らない
半分はどこに落っこちたのだろうわたしは向こうあなたはここを
今日きっといいことがある野を見ればこんなにたくさん八の字の舞い
お日さまが沈みゆく里御麓(おんふもと)そう書き「みろく」と読ませた人いる
雪雲がたち込め暮れるこの里をいつものように見つめる瞳
ポスターに光りが差せば切り抜いた文字そのままに白いさらしな
里人のこころとからだを整える堤防道行くドクターレッド
大地震(ない)で別れた子どもに会いたくても一度抱くを夢みる親岩
大地震(ない)で落ちてしまった子がいても手足さし伸べ救えぬ親岩
やがて来る親岩と子の再会を素直に祝福できないわたし
自分より大きな星の影を積みしばらくは凪ぎをゆく月の舟
虫という字でできているものだからきっとおいしい急がなくては
見てください光りの玉ってきれいでしょ 雨降りの晩の得意技です
たくさんの鳴る神たちが集まれば里の夜景を楽しむ神も
わずかでも気持ちは大きく戸隠と飯綱山の修験の意気込み
明け方の羽ばたきを待つ透明なむしの苦手はかくれんぼ
熱冷たいこの感触がたまらない今日も暑くなるんだろうな
恐竜のまえに地球を支配した巨大トンボが空駆ける里
抱っこした子どもは大きくなったかな 久方ぶりのふるさと帰り
赤い灯のともるところは更級の村に最初にできた信号
核融合反応で光る巨大星 月とおんなじサイズで上る
にんげんの食べるお米が足りないというけどお豆も作らなくちゃね
現代はドットで構成されている網戸はさんで同じ感慨
飛ばしたい雲もいるのだ息合えば朝のひ推進力に合体
評判を聞きつけ遡上なが居してしまってあわてて帰るサメ
わたしらも涼しく渡したいけれど千曲の流れもけっこう熱い
たっぷりの朝飯たべれば久びさの青空駆けて楽しいひつじ
冠着に照る満月をお手本に成長していくぶどうの子たち
梅雨明けの里の様子を見せたいとお日さま友だち連れて現る (7月22日)
たくさんの流れた涙は泉となり木花を育てていますから
埋めたいと思う気持ちはわかるけど酸素は十分届いているか
犬猿の仲であっても空ならば自由に心地よく向き合える
園名の色のならびの素敵さのわけ教えてと書かれた短冊
泥水で景色が見えないさかなたち夜明け前なら気づかれないと (7月4日)
たっぷりのモイスチャーに包まれて磨きをかけてゆくさらしなの月
わたしより高いはずだがひとっ風呂浴びて富士山ふかーく浸る
月の都は日の出もいいと聞いたので空を泳げば日本海みゆ
三十年たって作者は写真撮るわたしを照らす光りであるか
空にいる雨の子たちが蒸発の危険を忘れ集まる日の出
地下ふかく雨を下らせ洗われた自分のすがたに震える冠着 (7月4日)
ずぶ濡れになってしまった翌日は自転の速度をはやめる地球 (7月3日)
寝苦しい千曲に朝の雨させば白の大蛇がうねり始める
滴(したた)りのはじまりは光り水を得て天地万物色を手にする
「the origin」 白井ゆみ枝 「山滴る―郷土ゆかりの作家展」@千曲市アートまちかど ~2024年7月21日
このごろは漬けものジャムにもなれなくてそれでも明るく最後は車座
青葉敷くふっくらかまぼこおいしそう出来立てのうちにわさび醤油で
朝告げる大きな声のニワトリはここにいたのか飛べるじゃないか
水張りの田の時季にだけ星たちは自分のすがたを見ることできる
三峯山(みつみね)の三つの峯にくすぐられおなかが弾けてしまったかえる
悩みごと考えごとはみんなある心ゆくまで考えなさい

生きている化石にことしも会えたのでわたしの年は億+1歳

選ばれて残ったのなら斜面でもまっすぐに立つ堂々と咲く
わたしには見えない猫が水中を歩いていますアメンボたちと
のぼる日の方角にゆく人たちの寝顔に差してる光りのたぎり
このような色たちが降るところなら酸いも甘いも万物に宿る
富田久留里展「不知灯(しらぬひ)」@長野県千曲市土口のart cocoonみらい
水やれば鉢からカエルが飛び出して空には二つの大きなまなこ
丼ぶりのフライにするとうまい鯉食べたくなってやってきたワニ
くつ下を履くまえに爪を切った朝 窓を開けたらあんな遠くへ
ふくらはぎお尻の肉の盛りあがり当地に寄せてきたその宿願
百年を超えればまゆげは苔になる剃るのひかえて大事にしなさい
きみ早く渡ってくださいお月さま隠れて会えなくなっちゃうよ
さようならまた会えるかな語り合い尽きないけれど出発するよ
映すのは海辺のコンビナートたち水は命のダイナミズムと  「頭無し(かしらなし)headwaters」長門裕幸さん(千曲市アートまちかど・春コレクション展)
このような呼び名の斜面であるならばなんでもひと味ちがった作物
母と子の名をいち字ずつ持つお寺参ればいつもパワースポット(母光子一周忌)
見てもらうためには技が必要とシンクロナイズドフラワーイング
あまりにも陽気がいいので踊らずにいられませんと杏の木たち
生まれたよ知らせたくなりはるばると西の空から来た浄土犬
これこれが啓蟄だよと春猫がときおり高い跳躍をする
散る花を雪と思ったいにしえの人の気持ちがわかる雨風
年代と種類のちがいともにあるあんず庭園 庭師に会いたい
わが里の春本番を知らしめる川原の王者のみどりのみなぎり
流れ着き咲くものだけではないようで這い上がるそのたくましさ
遮光器と名のつく土偶あらわれてならばわたしもとウーパールーパー
いくつものすき間に落ちた種たちは石を動かす風とみず待つ
プリウスに乗ればわたしも川をこえ月の舞台に立てるかにゃ
もうひとつ別の世界があることを冠着のみず地下をめぐって
この春へすっかり整う身だしなみ少しおしゃれに赤のラインも
発掘の大発見をみた後はここにも宮殿あったかしらと
寒いほどいにしえびとの感慨はとどくコンビニ常習者にも
お砂糖は活力のもともう少し取ってほしいと天の滴り
上がりばなの月がお好きなあなたには見せてあげますしばらくどうぞ
鉄たちの行き交いが絶つ別世界それでも知りたいきつね猫たち
たくさんの子どものボールを受けとめた古木の顔のあきらめかなしみ
側溝は舗装みちだから人よりもひと足はやく点検します
きょうの風あしたの風はちがいます見上げてくれて感謝してます
藍色と黄土色のまじわりはみどり自然の混ぜ合わせ色
楽しみはひと足はやい春景色きみどり水いろ紅の玉たち(第九回北信焼物展ーいろどりの陶ー @千曲市アートまちかど)
こんな日は雨か雪だなそのうちに ひとつの屋根のしたの共感
つんつんと三つの峯にわき腹をつつかれのけぞる日暮れの巨人
大水に埋もれた川原の土砂のした冠着のみず湧き続けおり
西山のはるか向こうにすむというあのまぼろしの山越し巨人
なんとまあ白くすがしいお山かな筵のうえのおりんばあさん
これくらい大きな棘ならむしられまいまもなく川原の巨人の目覚め
ほんのりとみどりをなして春そこにみんなに知らせる川原の王者
にぎやかに天の楽団あらわれて今朝もこれからめくる新聞
髪すいて白さよく見えよく映えて決めるポーズをもうすぐ節句
谷あいをのぼったところの古峠(ことうげ)で千年前のみやげが決まる
ああやはり切れてしまったくもの糸つかまるひとはいつも大勢
プレートのぶつかりあった高まりに耳をすませば聞こえるひしめき
太陽のしずむ山ぎわその里を御麓(おんふもと)と書きみろく(弥勒)と呼びます
尾根みちは広くないけどそれぞれの位置を守ってイノシシ家族
黒ごまをまぜて焼かれておさとうがしたたり落ちてあわ雪せんべい
足跡を残したもののあとたどり突然さきが消えた川岸
体温がいのちの数だけある箱です積もった雪ははやくとけます
ライオンはじょじょにやさしい犬となりついには大きなしっぽのきつね
冬なので焼き上げましたたっぷりの雪みつ入りのカップケーキ
たっぷりの餡をふくめて神さまが最後に包みあげた山です
麦の子が地上に両うで伸ばし上げひかりに満ちている黄泉の国
沈む日は自然界にはないという直線みせて隠れていった
はじまりの冠着の岩つかんでる仙石の杜(もり)の大杉たちよ
用水とあぜと車道がよこ切るも麦の子たちは列くずさない
落ちる日を背中にふゆ野にたつひとはこんなに大きいものであるのだ
天めがけ飛びたつ赤矢となれずともその意思ちゃんと撮っておくから
お日さまは帽子の耳あてはね上げてきょうはここまで光りの絶唱
水色が恋しくなった魚たち巨大化したくなる風のみち
お日さまが去ろうとしても動かずにまなこ細めているだけの野良
お日さまのおなじ熱量うけとめてそれぞれ違うひょうげんの里
安曇野に負けてはいない千曲野とよんでた画家の気持ちがみえる
アートまちかど《近藤早苗回顧展~まるで桃源郷…。杏の里に生きて》2024年1月7日~2月11日
よくおいでくださいました冬ぞらはとっても冷たくさむかったでしょ
身をよせて動かぬ野良の凍るあさ上掛けぐらいすればいいのに
腕をくむ野良のおなかと胸のしたひと足はやく草萌えるかも
風よ押せ生まれたばかりの白玉をわたしが最初に手に入れるのだ
よい月が東の山にあらわれて伝説のひげの愉快なおじさん
知られぬようけだかく猫が空をゆく 東の山はうそをつけない
風つかみ見わたしたあと去りゆけり目指すところはここにはないと
みずいろの雲あらわれて寒いけど上京したときのクリームソーダ
冬を越すいのちの集まりたまり場となれば付き添う影たち日がな
この水の中にすんでる魚たち夕焼けということばを知るか
しわのない眉間の寝顔あの野良がこころを許すほどのわら床
敷きつめは五十年まえ入り口の土間にうっすらけもののあと
おひさまと時と流れを材料に出来上がりましたどうぞおひとつ
鳥だって慰められないときがある ひとにならって月見ています
わたしにはランニングシャツは無理だけどかた腕上げるぐらいのことは
我慢せず帽子ぐらいはどうですかあなたの名前のストーブ着火
虹色の羽衣あればお月さまありがたく着てちょっとぬくとし
冬の日が落ちてゆくときそのときの夢まぼろしの三角山
青い月たのしめるのは今だけと歌声なんども奏でるとんび
雨かぜをまぜた田んぼの土ころはきざみ稲わらすずめのごはん
おとうさん月がうしろに来ているよ そうだなこんなに景色がよければ
映画にも出た木のはし平和橋 見ようとすればいまでも架かる
冠着にだれがいちばん似ているか豆の木たちの腕くらべ
枝のぼりもいでる少年県立の美術館にて見たことがある
幼月(おさなづき)見えてしまえば大きいがその喜びは写ってくれない
冷えこめば千曲のながれ立ち上がり山やま越えるほどの熱量
パレットの絵具を全部まぜたなら仕事を終えたあんずの木色
このまちの装い月の都ならすべてものにやさしい光り
このような月を見たかもわが心なぐさめかねつと歌った人は
どうせならこんな頭髪めざしたい近藤正臣さんのこの髪
この道はどこまで続くかたわらの白菊だけがたずねる相手
はじまりへいっしょに向かう子どもたちこのすばらしい愛もういちど
いちど目に見えてしまえば顔に見えこれなら邪気たち里には寄れない
これだけの子たちがいれば旅立ちを望まぬものもきっといるはず
かつてわが泳いだながれに竿をさす青年どんな未来を釣るか
西山の向こう側にいる極楽の浄土のあみだ如来さま
いち年の疲れをとるには枯れ草のお灸はどうかと野原の提案
左手の窓には母が子を抱いた児抱岩(ぼこだきいわ)が見えております
来年の実りのためにわたしたちことしはこれが最後の燃焼
仲間たちみんな飛び去りその後にひとりながめる視野の大きさ
どう水をかけばいいのかこの冬をすごす準備をまずは岸辺で
暗ければほたると月のひかりにて学問したという歌がある
縄文のいずみに住まう黄金魚そらを揺るがす尾びれひとふり
信濃なる毎日新聞けさもあり照らされ光る配達のひと
わたしたちムーンシティーの人よりも先に見つけてコバルトの風
葉が落ちてみんなが受け止めやすいので転がることを恐れはしない
立ち上がるくずたち戦う構えだが動かぬままにきょうも日の暮れ
見上げよと歌声がする天上のはかなく白い半身の星
はぜかけの実りはとても重たくて緑のバンドエイドの覆い
砂漠ではバーニングマン燃え上がり四季の国ではくず立ち上がる
枯れ畑であそぶ子たちを守ろうとわたしを射抜きつづける目線
通夜おえて帰る先には昼間には気づかなかった生まれたての月
顔はんぶん耳でできてる命なら潜むわたしを見つけるはずだ
地球外生命体たち今ならば着地の場所はここを勧める
十八夜こよいの月の出遅いので出どころここと雲が教える
これだけの間隔あれば寝返りもしやすいだろうお疲れでした
刈りとりの境に咲いた彼岸花どちらの岸が涅槃であるか
冠着の里の農家は粋である締めに見せるは田のピラミッド
われわれの山のように立ちたくてスクラム組んでもうひと仕事
四方から集まり合体くもたちはスーパークラウド月都権現(げっとごんげん)
まっすぐな三匹の子に負けまいと大ジャンプするその肩まわり