さらしなの歌1
野の景色など、さらしなの里の魅力を詠んだ短歌です。2022年冬から23年春にかけて作った歌を編集して、フォト歌集「ひかりのキャンバス」を発行。
更級の子らは来た道ふりかえり冠着に吠えすすんでいった






















































耳元の真夜のかえるの子守歌早苗よく寝るよく育ちゆく























命かけ道を横切るそのわけを聞くを許さぬけむしの走り



求愛の競い合いだと知らずして拗音濁音駆使する六十路









過ぎたるを蘇えらせて新しき過去とう夢を世阿弥はみせり
季の実 万象の光りをまぜて清流はとどめず色を冬の日ぐれは 暁闇の星のすごさよわが頭じょう北斗七星五十年ぶりの 凍て土に伏してうわ目にわれを追う野良の眼のたじろぐ強さ ふる雪のさまを聞かんと帽とれば聞こえてきたりわが体内血 落葉の杏の幹は黒極め季の実の紅をたくわえており
























定年いち年 職ひいて閉めていたりしふるさとの店を根城に残りを生きる 田の中にありし店なり台風の過ぎりに客のおしゃべり楽しき 停留所に張られし映画のポスターの厚みおとなの世界の入口 希望にはかなしみそえり朝明けをうつす六月梅雨水張り田 田鏡はうつせり万物日をあびて成長するを早苗のねづく 捨てられぬもの売れ残り苦労という母の付加価値ついているらし 読みふけり母はほこりのにおい濃き封書をわれに「汝が持て」と言う さけ咥う熊も老いたり木はだ透け円きまなこの古りし置物 扉のあかぬ置き時計なる秒針に電池の精のすべてがそそぐ 捨てることでその在りしことまざまざと浮かびまもなく消えてゆくなり 躊躇せりグーグルアースにふるさとを動かしおれば見てはいけぬを 目の前をゆく人は元すご腕の検事なるかもラーメンすする まぐろなら吾が好めるは赤身なりづけもうまいぞ浸かりし時間 はがねなる網の入りたるガラス窓世界は一つひとつでできる 笑点を見ずにいたればラジオから岡村孝子の代表曲くる 越後より上るに源流はるかなりまずは信濃の平が迎う 高きへと流るる用水あるを知りわが体内の血液いとおし わが生地さらしなである都人歌に日記にその名あこがる 人のへる国なればとは思いつつ更級郡の消滅かなし 完成はしたらつまらぬ打ちこめぬ「敗者さらしな」言の葉見つく 散りぎわに眺めたきものさらしなの種のまかれし四方に千里 極楽と唱えてひと日しめくくるゆ浴みをのぞむ朝(あした)のとこに 返納に老い父乗せるわが車おそわりし道ゆく通学の ゆく電車その定義もし問われれば一つ答えは手をふらすもの 願わくば無理の余地あるわがからだやかんに徳利夕べに落とし 過去時間のたまり場にして行きわたる身体にすべく柔軟もする 書けぬゆえ捨てんとしたる鉛筆は9Hとぞだれが買いしか ためおけば捨てられる物おしまずに見せて使って記憶の風に 渡月橋わたりきる子の言葉なり「振り返らずにいるは難し」と わがなすを三十年後はごみとして捨てよ子どもらここは古る里



水張り田一つ水面はひかり居て暁闇のさと黄泉の入口 くねりたる野の道五十年たてど変わらず別の世界への道 流れゆく水面の明滅みておれば光と影は同義語である 見つけたり徐々にしか首起きなくていずこにも在る空の大きさ
国宝となる平安のおみな編む更級日記われらの里名 (藤原定家書写「更級日記」国宝に)
人と物、ことなりわいをかがやかす舞台なるもの土地のよび名は









あの月は信長秀吉家康の眼にもあり流るる涙 2022年11月8日 442年ぶりの皆既月食






しみ作る日差しをあびるガラス器の放つ光りをひとは楽しむ 桑の実は絨毯として吾の足の衝撃を吸い道染めにけり わが髪をひろえば浮かぶ白猫のチビの遺髪のあまたありしを



追い風か向かい風のみの堤防に少年老いて横風を知る 交わればひとつ生じる逆流も円を描きて大きな流れ 天下る鳴る神のみち切っ先のごとく山河はほのかに血の香 海辺より帰り川原に立つわれの鼻孔に残るう潮のかおり
鬼籍入る猪木氏われは半世紀前に触れたり闘うからだに 異なるを相克したる先駆けは猪木寛至氏われの十代 猪木氏の月の都の月をみて吠える言の葉聞きたかりけり












万物を生かす聖水わきだして尽きることなく嗚呼お種池






道場に下がる太なわ我がからだぶら下ぐのみの高校一年 なわ上りぶら下ぐのみのわがからだ一年ののち乗り物となる かいなのみの力にあらず全身の引き締まりにてぐいぐい上昇 のぼり詰め見えしは景色畳へと降りる自己への肯定感と
さらしなは石垣であるほどけない月の都は石ひとつなり 月の都みなが唱えばおのずからさらしなが照るさらしな照らす






蓄えし時間が身体(からだ)空穂氏の晩年詠の生まれし身体


植うるるを待つ尾根筋の水張田この景色こそ姨捨棚田

五加戸倉それぞれの村と合併し戸倉町となる更級村は 戸倉町は隣接市町と合併し千曲市となり信濃のハート 千曲市の半分はもと更級郡 信濃の心臓三段論法で
さらしなは科野より「しな」いただいて土地の意思をし閉じ込めており 埴科郡を頂く坂城いつまでも科野の末裔絶ゆ兆しなし
マツコ言う群馬ラーメンすくい上げさらしなそばのように白いと












善光(よしみつ)の寺の近くで叔父父の善教善胖(よしのりよしひろ)吾の名を決めし


更級の郡庁ありし塩崎が長野市にあり千曲市になし
ルビなくば読めぬ人おり千曲市と冠着つけずもよき日いつ来る
ふる雪の結晶おなじ形なくあまたの白きミニ宇宙船
角のあるゆえに真白しふる雪は「まるくならずもよし」と言ってる
たまたまの気象のなかを落ちてきてつながり結晶六花となれる
はじまりの結晶おなじ形して地に降りる雪おなじものなし
六角の砲弾形に生まる雪衝突しながら六花となれり
天空で生まれし雪の結晶は触れ合いながら六花にそだつ
手のひらに落つる雪ひら順番に白を埋めこむ「なれ清まれ」と
にび色の空を見ていて思うのは雪ふりたまえ降りたまえ雪
豊年のきざしと雪がいわるのは幸としらべのおなじゆえ説
雪ひらに入りこみたる音たちは居心地よくて出るを忘れる



わが育つ店のシャッター十年ののちの引きあげ足もと光る
「歴史的事件」と歴史家更級郡きえるに言いて歴史にのこす
新市名「更科」「千曲」があらそいて千曲に軍配きん差であがる
郡として消滅あらたな市名にも選ばれずなり敗者さらしな
土地の名は戦略である新市名「千曲」は戦略の失敗である
山越えの案内板に「更科」とあれば坂道たのしからんに
平安の「更級日記」のさらしなは信濃の国の更級である





