灯台の白い破片が飛びちっているのではない風のかもめら 杉﨑恒夫
岬に立つ白い灯台を前にしたときの感覚には不安が含まれています。美しいだけではなく、足もとが揺らぐ不安定さを覚えます。崖下の海原に吸い込まれそうで、落ちたら二度と戻れないはるかなところに行ってしまいそうな感じ。川に架かる橋を歩いて大きな流れの上にきたとき、思わず欄干に手を添えたくなるのも同じ感覚だと思います。
この歌は美しいものを前にしたときの不安を、美しいという気分だけで済ましてしまうことのないようにさせています。灯台の周り、岬一帯にたくさんのかもめが舞っている様子も美しいものですが、作者は砕け散った灯台の壁の破片だと見ることによって、そうした美しさと不安を一つに表現しました。「白い破片が飛び散っているのではない」と歌いながら、読んだあとには、かもめは灯台の破片というイメージがずっと残ります。「パン屋のパンセ」所収。
☆白の力を借りて自分の思いを表現した歌を「百白百首」のコーナで紹介しています。