一杯の水にはじめる一日の窓の遠くに白山が立つ 三井ゆき

 起き掛けの「一杯の水」がからだにいいといいます。作者は金沢市に住む年配の方なので、雪が残る北陸の霊峰白山(はくさん)が見える部屋に、水の入ったコップを持っていき、慈しみながら体内に注ぐ様子を想像しました。

 リズムと調べがいい歌なので何度も口ずさんでいるうちに、「いっぱい」「いちにち」という調べの連続は「いのち(命)」を連想させ、命の躍動の始まりを感じさせます。加えて、一杯の水を飲みながら眺める「白山」という山の名のすがすがしさ。遅くまで雪が峯に残る山はたくさんある中で、それでも「白山」と名付けずにはいられなかった人たちの愛着と信仰をも感じる呼び名です。

 上る太陽に手を合わせ、拝んでいたむかしの人たちも、一杯の水だけではなく、一杯のお茶、コーヒーを飲んで朝をすごす現代人も、すがすがしく躍動する心持ちで一日を始めたいという思いは同じです。「水平線」所収

☆白の力を借りて自分の思いを表現した歌を「百白百首」のコーナで紹介しています。