いきづまったとき、呪文のように唱える短い言葉があります。そのときどきでぴったり来る言葉があるので、ずっと同じものではありません。自分で作ることもあれば、どこかに書かれていたものであることもあります。最近、単語帳にメモし、よく唱えているのは次の言葉です。
中(あた)りても中らなくとも弓引けば身体の芯が浄化されゆく 松村千津子
的に狙いを定め、弓を引き絞って一点に集中する心身の引き締まり。弓道に親しんだことはありませんが、この短歌によって自分もその場に身を置いているような感覚になれます。刹那の時間であるからこその緊張感の心地よさといった感じ。この歌を唱えたくなった理由は、加えて、的に当たるかどうかは関係ない、とにかく弓を引き絞ることが気持ちいいと詠んでいるところでした。
なぜ、気になる短歌なのかと考えました。結果はどうなるか分からないが、とにかくやってみる、からだを動かしてみる、そうすることで心身はすがすがしくなるという普遍的なメッセージも入っているなあと気づきました。
作者自身がそうしたメッセージを込めて歌を作ったかどうかわかりません。メッセージ性をわたしが受け取ったことによって、作者の短歌はわたしに深く届きました。普段のくらしには、作文することによって、多くの人に深く届く体験や出来事があると思います。