取材結果を記事にするとき、「串を通す」という言い方をよくしました。いろいろな質問をし、いろいろな資料を集めているので、たくさんの情報が集まっています。転がっている情報を選んで、それに串を通せるな―というイメージができれば、記事の8割は完成でした。
自分の来し方をまとめたいとき、いちばん問題になるのは何を書くかということです。過去に書いた文章があれば、それは団子です。来し方の大きな要素と思える内容のものがあれば、その団子たちを通す「串」を探します。過去に書いたものがない場合は、短い文章を書き溜めることをおすすめします。自分の心に残っているエピソードを一つずつ作文します。串は見つかっても、棒にはまださす部分が残っていることもあるでしょう。新たに書きおこします。串はテーマともいえるもので、一見関係のないようなエピソードを関連づけることができます。
2006年に自費出版した「姨捨の男」は、田中康夫知事が誕生した長野県政の取材のため約20年ぶりに信州で暮らした自分の物語を中心に、本格突入した高齢社会に関連して書いたエッセイや短歌などを集めた本です。「姨捨の男」というタイトルが、本を貫く「串」となりました。串となるタイトルが決まったことで、本に載せる過去の文章の取捨選択ができました。一方で、足りないと感じるところもあったので、新たに作文し、加えた文章もあります。
伝えたい思いのことを、引き出したりひっこめたりしていると、ふと浮かんだり、思いつく言葉があるものです。その言葉が串になる場合があります。更級郡の消滅をきっかけに発行を始めたかわら版のタイトル「更級への旅」もその一つです。この言葉が浮かび、発行が続けられると思いました。