NHKの「100分de名著」という番組が、第二次世界大戦に従軍したソ連の女性の証言をまとめた本を取り上げていました。「戦争は女の顔をしていない」です。ソ連では100万人もの女性が男性と同じように兵士として戦ったという事実自体をわたしは知りませんでした。著者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチも女性で、従軍したたくさんの女性にインタビューし、それを当人の語り口調でまとめたものだそうです。
番組の解説で一番印象に残ったのは「感情の記録」という言葉でした。とかく歴史というと事実が重視されますが、この作品は従軍した女性の感情を記録しているというのです。例えば75人を殺害した狙撃兵の女性。最初に引き金を引いて男を倒したとき「これは女の仕事ではない。憎んで殺すなんて」と語っています。別の狙撃兵の女性は、従軍で一番恐ろしかったことは何かと聞かれ「男物のパンツをはいていること」と答えました。衛生指導員の女性は「仲間の女の子たちと一緒に集めておいた包帯で花嫁衣裳をつくったの」と語ったそうです。
この感情というのは「思い」と言い換えられると思いました。こうした思いは聞いてくれる人がいたからこそ語られたものでしょう。文字、文章として記録し、残されたことが大事だと思います。
男性に比べ、女性の声や思いの内実はそんなに記録されていないのではないでしょうか。アレクシエーヴィチは2015年、ノーベル文学賞を受賞しました。