伝えたい思いを届けるには、伝わるような文章や言葉にすることが大事です。そのためには工夫が必要です。わたしは文化部に配属になったとき、原稿を見てくれる上司から最初に指摘を受けました。「強い思いや主張であればあるほど、耳を貸さないだろう人にも関心を持ってもらえるように書け」というのです。
地方から東京本社に異動し、住まいを武蔵野の雑木林がまだ残る地に求めました。林を切り開いて運動公園を造成する計画が進み、地域の自然保護グループが反対し、わたしもその一員になっていました。そのことを原稿に書いたのですが、上司はわたしが原稿の中で書いていた「伐採された雑木の株からひこばえが生えている」という事実から書き出せと言いました。切られても萌芽更新で再生しようとしている場面を強調して書けば、推進派の人たちも関心を寄せるというのです。結果的には、ひこばえの生えた株も掘り起こされて、建設が進んだのですが、武蔵野の林を残したいという思いは推進派にも伝わったのではないかと思います。
最初からそのように書くのは難しいです。わたしの最初の原稿は、貴重な武蔵野の雑木林の大規模伐採に反対という自然保護グループの主張を、ストレートに書いたと言っていいものでした。仕上げていく過程で上司の助言があり、形になりました。逆にいうと、強い思いの文章があったからこそ、そうした手直しができました。とにかく思いを書くことから始めるといいと思います。どのように手直しすれば相手に届きやすくなるか、自分が第3者の目で読み直すことができるようになるのが一番ですが、最初は、やはり助言をしてくれる「最初の読者」がいるといいです。