真っ白な吹き出し二つ溶け合って駅のホームにおはようの声 久野茂樹(霧島市)

冬、学校に向かう高校生たちの姿が浮かびました。わたしは自転車通学だったので、このような体験はありませんが、電車で通っていた同級生たちの間には、いくつも白い吹き出しができていたんだろうなと想像しました。

川端康成さんのノーベル文学賞受賞スピーチに「色のない白は最も清らかであるとともに、最も多くの色を持っています」という言葉があります。日本人の美意識の特徴を世界に披露したもので、艱難辛苦、悲喜こもごもを味わった人の清らかさや、これから描かれるすべての色の始まりは白い紙であることを言っていると思います。

高校生たちの白い息が、白い紙や白いキャンバスのように見えてきました。「おはよう」というあいさつの周りには、きのうまで、そして今日これからについてのさまざまな思いがあるでしょう。そうしたたくさんの思いが文字にはなっていないけど、白い吹き出しの中にあるのです。2022年3月20日朝日新聞歌壇入選歌

川端康成さんのノーベル文学賞受賞スピーチについてはつぎもご覧ください。https://www.sarashinado.com/2014/09/06/kawabata/

☆白の力を借りて自分の思いを表現した歌を「百白百首」のコーナで紹介しています。