生まれ育った「さらしな」という土地とその名にまつわる自作の短歌を2020年、「さらしなのうた」という本にまとめました。定年退職する前に、作っていた短歌を整理しておきたいと思いました。歌は自分で選び、業務用の編集ソフトで制作、自費出版です。
長野県駒ケ根市在住の歌人の方にお送りしたところ、お返事をいただき、そこでは「大谷善邦歌集『さらしなのうた』 抽出十首」というタイトルで、「印象に残る十首」を列挙してくださっていました。
「歌と向かい合おうとする気持ちが滲み出ている若々しい感じのする御集でした」というご感想もありました。
不思議に感じたのは、選んでいただいた十首が自分の歌ではないような感覚がしたことです。個々の歌はそれぞれどのような経緯で作ったのか思い出せるのですが、第三者の評価を通し、このように選び出してまとめてもらったことで、新鮮な歌として読み直すことができました。こういう歌の作り方でいいんだという自信にもつながりました。
選んでいただいた十首は次の通りです。
大谷善邦歌集『さらしなのうた』 抽出十首
千曲にて泳ぐいちどの体験をプールを知らぬ伯父(おじ)がくれにき
冠雪(かんせつ)をかむゆきと読むこと多きおばすて山のふもとの男
あまたなる行きつ戻りつ百年の時のたまりば姨捨駅は
妻を決めトンネル抜ければ白き里ひと筋の野火上がりていたり
照らし合う月と水田(みずた)を行くおさな両のまなこに蛍たち舞う
幼き日まつたけ採りの朝に見し広がる雲海わが浄土なり
出雲なる高層社殿支えたる杉の年りん縄文模様
耳かきをされたるあぐら大きくて薄目でみあげし親父のまなこ
老い三人(みたり)桜の下を歩みいて容易に幹に隠れてしまいぬ