埼玉県飯能市の種屋さんから聞いた話が、「さらしな」の地名のブランド力を明らかにするかわら版「更級への旅」を続ける弾みとなりました。
今、畑にまかれている種には大きく、種を採取して翌シーズンにまたまいて収穫する「固定種」と呼ばれるものと、種苗メーカーが交配した一代限りの「交配種」があります。交配種は形や収穫時期が安定して栽培しやすいので園芸店で売られる種の大半は交配種です。取材した種屋さんは地域で作られてきたかぶの固定種を採算度外視で郊外の畑で栽培しており、その理由を尋ねたら「とにかくDNAをばらまいておく」と言いました。作るのは大変でも味のあるおいしいかぶの「生命の設計図」とも呼ばれるDNAが、種としてどこかに残っていれば、自分が作らなくなってもいつか発芽してだれかが見つけて、また復活するというのです。
最後の所属自治体だった大岡村が長野市と合併し、長野県更級郡は2004年消滅しました。千年以上前から都人のあこがれだった「さらしな」の地名が口の端に乗らなくなるのが残念で、もう一度世に送り出したいと思って20年近くになります。しかし、自治体の合併でできる新たなまちの名前の候補になりながらかなわなかったこと、文化庁の観光振興政策「日本遺産」のタイトルとして「月の都さらしな」とならなかったこと…など、なかなか困難です。それでも「さらしな」という地名の力は永遠だと思っているので、その底力の姿と理由を書き続けていれば、いつか誰かが読んで…という思いで「更級への旅」を続けています。
埼玉県飯能市の種屋さんを取材したときは。まだだれもがホームページ(HP)を作れるという時代ではありませんでした。HPが作りやすくなってからは、書いた文章(テキスト)と一緒に、文章と写真に見出しをレイアウトしたPDFをHPにアップしました。一枚の画像のように表示されて保存・閲覧しやすい形式のPDFは、わたしにとって「さらしな」という地名のDNAとなりました。