文章にはタイトルが付きものです。筆者の名前を知っている人、知らない人に限らず、読んでみたいと思うようなタイトルをつけることが大事です。内容がいいのに、ふさわしいタイトルになっていないのはもったいないです。
新聞記事の場合、タイトルに相当するのが見出しです。1面や社会面のニュースの記事の見出しは実は、記事を読まなくてもいいくらいに練ります。見出しを読めば、ニュースの核心、展開が分かり、記事を読まなくてもいいくらいになるのが理想です。これはニュースという文章に求められるタイトルです。思いを伝えたい場合は、新聞の真ん中あたりにある生活面、文化面などの記事の見出しが参考になると思います。これらの記事の多くは、記事を最後まで読んでもらうための言葉を見出しにしています。
エッセイや自分史、物語というジャンルの文章を書くときは、新聞の中面のこうした最後まで読んでもらうためのタイトルを気に留めてみてください。ニュースのタイトルがニュースの核心を、記事を読んでもらえなくても伝える手段であるとすれば、エッセーのタイトルは筆者の思いをたっぷり、豊かに感じ取ってもらうための手段です。
その意味で、平安時代の「更級日記」という日記文学のタイトルは、大変巧妙で、有効です。信濃の国のさらしなの里のことは何も書いていません。「更級」という言葉も文字も出てきません。そのことによって当時の都人の憧れであった信濃の国のさらしなの里のことをしっかり読者に想起させ、筆者の来し方を豊かに彩ることになっています。旧更級村の入り口の生まれであるわたしは、さらしなの里についての記述を求めて、結果的に最後まで読んでしまいました。作者の企みにはまりました。
★文章を作るときに普段心がけておくといいことを「心がけてきたこと」のコーナーで連載しています。