伝えたい思いは、文章に限らず言葉にすることでもいいと思います。わたしは短歌を作ることがあります。「さらしな」という地名が、奈良・平安時代から多くの人のあこがれになった理由を調べていくとき、最もヒントになったのが和歌だったので、自分でも同じ57577のリズムの短歌を作るようになりました。
短歌を作ってきてみて思うのは、文章では書き尽くせない思いを短いからこそ伝えることができるのではということです。更級郡という郡名が、平成の市町村合併で2005年消滅。そのことが残念で、いろいろ考えてきたのですが、2019年、定期購読していた短歌の月刊誌に5首を作って投稿しました。その中の次の1首が入選しました。

 最後なる大岡村は二〇〇五年長野市となり更級郡消ゆ

更級郡は県庁所在地の長野市の隣りにあったので、国が合併政策を推進するとき更級郡の町村はどんどん長野市に吸収されていきました。最後まで残っていたのが山深い大岡村で、わたしはその閉村式にも立ち会いました。そうした歴史の事実を短歌にしたのですが、短歌の形にすることで、更級郡がなくなる寂しさ、村単独でやっていこうとした人もいる大岡村の無念さも表現できた思いがしました。
 なによりうれしかったのは、歴史の事実を詠んだその歌が入選したことでした。こういう言葉のまとまりで思いは伝わるんだということでした。

*短歌誌に投稿した5首については、アネックス「更級郡の短歌」に載せていますので、ご覧ください。