文と写真・長野市塩崎在住のさらしなの里歴史資料館元スタッフ、荒井君江さん、さらしなの里友の会だより3号=2000年秋=から、写真は、猪平の池から見たさらしなの里と冠着山
「山ぁいべさ。めしやき餅さんざ食べられるに」
収穫の秋。小学校から帰ってきたばかりの私を母はおこびれ(おやつ)で釣って、よくりんご採りや桑摘みに山へ誘った。
私の生まれは塩崎の長谷寺のふもと。母はショイコ、私はボテを背負い猪平(えんてぇら)の池近くのりんご畑をめざす。石ころに躓いて転んだり、蜂に刺されたり…でも山道は楽しいのだ。大木の根元に地蜘蛛の巣を発見。フワフワの巣をそっとつまんで「ヘンコヘンコ…お茶飲みぃ来おや」と呪文を唱えながら家主を誘い出す。 歩き疲れて里を見晴るかす。南方に聳える冠着山を指して母は言った。
「てっぺんに神さんおいんなさるだと」
祈ると願いを叶えてくれそうなこの山が好きだ。その後、私は二十歳の元旦を頂上で迎えた。
さらしなの里は、幼いころのふるさとの光景をよみがえさせる。そして今、この地の人々の豊かな笑顔に勇気づけられ、人を信じ助け合う温かな心に支えられている。