文・千曲市仙石のさらしなの里歴史資料館元館長、小松勝さん、さらしなの里友の会だより18号=2008年春=から
山を守り、山をつかさどる神を山の神といい、各地の山の入口や山中には、神霊が招き寄せられ乗り移るとされる御神木があり、その根元に山の神が祀られています。仙石には区有林の御林入口と、冠着山入口の二カ所にありますが、今回は姨捨伝説に登場する冠着山の通称、仙石登山口にある山の神と御神木について紹介します。
仙石登山口にある山の神は、推定樹齢三百年という赤松の御神木とともに仙石林道の傍らにあり、家庭の燃料が木材中心であった昭和三十年代まで、地元をはじめ多くの地域住民が冠着山の恩恵に授かりました。
現在は、車で通過することが多いため立ち寄る人は少ないが、この場所も区有林の一角で御神木と祠の周りは広場になっている。林道ができる以前はここに荷車を止めて山に入る人や、自宅から背負子を背負って出かけた人たちが、御神木の松が水平に広がる枝の下でまず一服して休憩をとり、山の神に安全を祈願して山に向った。夕暮れになるとそれぞれが焚き木を背負ってここへ集まり、背負子の荷を整えてから各々の家路についた場所として知られています。
冠着山の思い出を語る年配の皆さんが、青年時代は毎日竹製の弁当に握り飯を詰めて山に出かけ、現場では仲間同士のいろいろな情報交流があったから、冠着山を冠着大学と言うくらい、山仕事を楽しんだと懐かしそうに話してくれます。冠着山が、地域住民にとって大切なコミュニティーの場所であったということでしょう。
こうした光景を、山の入口で見守り続ける山の神の御神木が、衰弱して枝枯れが目立つようになったため、十数年前には仙石区の役員を中心に枯れ枝を整理して環境を整備したほか、毎年の年中行事である区有林の管理作業でも、区長さんをはじめ区の役員が御神木と周辺の下刈り作業を入念に行なっており、徐々にその効果が表れているようです。御神木の隣に二代目も成長しつつあります。山の安全と地域の発展を見守り続ける山の神とともに、永く御神木として語り継ぐよう保存したいものです。