歌舞伎の演目に長野県の戸隠(旧戸隠村、現長野市)に伝わる鬼女伝説をもとにした「紅葉狩(もみじがり)」があります。平安時代、京都の武将(平維茂=たいらのこれもち)が退治に来て、鬼女とは知らずに姫の酒宴のもてなしを受けるのですが、その姫の名は「更科姫」。江戸時代後期、歌舞伎の名優、九代目市川団十郎が創作しました(シリーズ27号参照)。当時、「さらしな」という地名が全国で有名になっていたので、信濃を代表する地名「さらしな」を姫の名に使うことが物語を面白くすると団十郎が考えたのというのがさらしな堂の説です。
長野県岡谷市出身の歌舞伎俳優市川笑野(いちかわ・えみの)さんが27号を読んでくださっていました。笑野さんは、九代目団十郎(成田屋)の教えをもとに新たにできた一門「澤瀉屋(おもだかや)」の二代目市川猿翁(えんおう)さんのお弟子さんで、故郷での舞踊会で紅葉狩の更科姫(鬼女と合わせ一人二役)を公演することになり、27号掲載の錦絵をパンフレット用に提供しました。それがご縁で、岡谷市のカノラホールで5月11日開かれた公演にご招待いただきました。紅葉狩を舞台で見たのは初めてでした。
演目のタイトルは市川さんが先人の公演を踏まえ独自にアレンジした「綾錦戸隠紅葉狩(あやにしきとがくしもみじがり)」。艶(あで)やかな更科姫が、姫の本性である鬼女に変身する場面がダイナミックです。紅葉の模様を織り込んだ鬼女の衣裳も絢爛。武将など男と女、静と動のコントラストも鮮やかで、歌舞伎ならではの華やかさ、醍醐味を堪能しました。舞踊会を撮影したDVDも、市川笑野後援会で販売します。問い合わせの電話は0266(28)8740です。 画像をクリックすると、PDFが現れ、印刷できます。