写真は埼玉県立近代美術館(さいたま市浦和区)で屋外展示されている石の彫刻です。ハートの中の闇に浮かぶ光の球…。ドキッとしました。仕掛けはシンプルでした。石をくり抜いただけです。ただ、そのくり抜き方が巧妙です。胸元くらいの高さの直方体の中に巨大な卵が入るような空間をつくり、底は雨水がたまるようになっています。上空から照らす太陽光が水面に反射して黄金色の光の球が内部に浮かぶように映るのです。周辺の黒い部分は、ハート形にくり抜かれた局面がつくる影で、黒く塗ってあるわけではありません。光の球は底の水面をなでる風によって時折、ゆらめきます。
「すげえ」とうなってしまいました。作品が見せる景色は太陽光の角度や強さ、降雨の有無によって異なるはずです。この景色は偶然の産物です。夜、明るい月が上空にあるとき、どんな光景が現れるのか。「月の都さらしな恋の里」にもこのようなオブジェンがあるといいなと思いました。
製作者は志水晴児さん。東京芸術大学を卒業、石の野外彫刻で知られ、2005年76歳で亡くなりました。作品の足元にタイトルが「NEGATIVE BALL」(1969年作)と記されていました。画像をクリックすると、PDFが現れ、印刷できます。また、ここをクリックすると動画もご覧になれます。