佐良志奈神社(長野県千曲市若宮)の拝殿に向かって右側にある御仮殿(おかりでん)の中に、おみこし(神輿)が長く眠ったままになっています。豊城憲和宮司に見せてもらいました。鶴や松など夫婦円満、長寿、子孫繁栄を祈願する縁起物の彫りが色鮮やかです。先代の直祥宮司によると、この神輿がかつがれたのは約70年前の太平洋戦争中が最後。直祥さんは当時は少年で、神社の神事を受け継いできた人たちの多くが戦死してしまったので、詳しくはわからないのですが、「神を神輿に乗せて山に上った」と長老らが言っていた記憶があります。神様は、春は里に下りて豊作をもたらす「里の神」となり、収穫を終えた秋は山に上がり「山の神」になるという考え方が昔はあったそうです。神輿は各地で今、氏子衆が夏祭りなどで町中を練り歩く姿がよく紹介されますが、農山村では、神様が季節によって山と里を行き来するのが神輿のもとの役割に近いかもしれません。佐良志奈神社の背後に控える里山には古峰(こみね)神社と呼ばれるお社’(やしろ)がありました。今は佐良志奈神社のすぐ上の八王子神社の場所に移されていますが、両方とも平地の里宮の佐良志奈神社に対し山の奥宮に位置づけられていた可能性があります。戦前はこの神輿をかついで里と山を行き来する神事が営まれていたのでしょうか。神輿のてっぺんにある鳳凰(ほうおう、写真の右下)も素朴でかわいいです。ご覧になりたい方は社務所まで。 画像をクリックすると、PDFが現れ、印刷できます。