更旅195号・17音のさらしな姨捨(蛍も)

更旅・郷嶺の俳額samuneiru

  さらしなの里の里山の一つ、郷嶺山(ごうれいやま、千曲市羽尾5区、シリーズ92116号参照)に、そば店もあるさらしなの里展望館という建物があります。さらしなビューライン(千曲川歩行者自転車専用道)をはじめ、名月がのぼる鏡台山などさらしなの東山が一望できる眺めのいい場所です。

 この写真は2階の大広間に掲げられた俳額で、合併で千曲市となる前の旧戸倉町地区の戸倉町俳壇(現戸倉俳壇)のみなさんが結成25年を記念して作ったものです。掲載句は54人の方の54句。ご自身がそれぞれの感性で発見した美の世界を、ひらがなにすれば17の文字で表現しています。切り取られた世界は現在の千曲市の景観や風土の美しさにもつながります。
 さらしな姨捨のモチーフが強調された二つの句から特に刺激を受けました。一つは「姨捨の闇を縫ひけり初蛍」。作者は千曲市若宮区の「忠治」さんです。梅雨のころ、湿り気たっぷりの闇夜の棚田に初めて舞った蛍たちの光の残像が、衣類の破れを繕った糸の縫い目の光景と重なったのかもしれません。闇を「縫う」という表現が面白いです。一匹の蛍の光だと、闇を「裂く」となるのでしょうが、それだけたくさんの蛍がまとまって舞っていたのです。
 刺激を受けたもう一句は「冠雪のかむりきいよいよ孤高たり」。千曲市上山田区の「輪子」さんの作です。「かむりき」は冠着山。周囲に山並みを従えているので、雪が降ると、一つ頭が抜けたその姿が神々しく見えます。その様子の表現の仕方がダイナミックです。さらしなの純白、清浄イメージを際立たせます。シリーズ149号で雪の冠着山の姿を大きく紹介しています。

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