177号・光が差し込むアンズの染め織物

更旅177・窪田さん・サムネイル

 「更級花織(さらしなはなおり)工房」という名の工房を主宰する染織作家の方が、長野県千曲市倉科地区にいらっしゃいます。アンズの木を煮出したエキスで糸を染めるアンズ染めで知られる窪田孟恒さん。どうして「更級」を工房名に取り入れたのか知りたくて、窪田さんの工房を訪ねました。
 窪田さんは、しなの鉄道・屋代駅前の千曲市桜堂に生まれました。お母さんが更級郡八幡村(現千曲市八幡地区)のお生まれで、幼少のころよく千曲川を渡ってお母さんの実家に遊びにいった体験が背景にあるそうです。叔父さん(お母さんの弟)が大池の近くの八幡林の開墾をしており、よく「花いっぱいにする」という話を聞いたり、冬は開墾畑に積もった雪でスキーをやって楽しかったそうです。
 つらいときには桜堂の家の屋根に上がり冠着山を眺めていたことも「更級」という地名へのこだわりにつながったとのことでした。
 「花織」の名前には実際の花を織り込んだように美しい織物を目指したいという窪田さんの思いが込められています。アンズの花が大好きだった窪田さんはアンズのメッカの一つである倉科地区に約30年前移り住み、アンズ色に染めた糸でスカーフやネクタイなどの日用品をはじめ、タピストリーや着物など工芸品も手掛けてきました。中でも窪田さんが好きなのが「絣」。絣とは糸に染めない部分も作り、染めた色の部分と染めていない部分との組み合わせで模様を織り出す手法です。
 この写真が近作の絣の一つで、 作品名は「みのり」(幅80㌢、長さ150㌢)。たわわに実った枝つきのアンズを手にすくっと立っている女性。大人でも少女でもない不思議な存在。さわやかな風が吹き抜けています。
 白が強い所は、染めなかった糸の部分をタテとヨコで交差させた箇所。アンズの英語名「APRICOT」の「C」は三日月に見え、「月の都さらしな・恋の里」(シリーズ162号参照)のイメージにぴったりです。この作品を見たある方は「光だ」と言ったそうです。なるほど、その通り。光が差し込んでいるすばらしい作品です。画像をクリックすると、PDFが現れ、印刷できます。