質問 「月の色」というと、一般的には黄色ではないでしょうか。さらしなの里の月は白色のイメージで都人にとらえられていたそうですが、どうして黄色ではなく白なのですか?
答え 確かに現代の私たちが月の絵を描くとき、色を黄色にするのが普通だと思います。しかし、月が放つ光は伝統的に白色のイメージです。満月など月が大きなときに暗がりを歩く際、意識して光を感じてみてください。澄んだ、清澄な色を感じると思います。感じたその光を色で表現すると、黄色ではなく白色になると思います。
真っ暗闇に山の端から顔を出す月は黄色というか赤みがかかっているのをよく見かけます。大気にほこりがたくさんあると、そのような色に見えると言われます。塵がなく空が澄んだとき、特に上空に月が上がると、月面自体の白さが際立ちます。朝方、山際に沈もうとする月(有明の月)は姿が白く、もちの肌のように見えます。朝方は空気が澄んでいるのも理由でしょう。
とはいえ、黄色にも見えるから月の存在が印象的なのは疑いのない事実です。それにもかかわらず、月の象徴的な色として白を代表させるようになったのは、平安時代に生まれた「雪月花」という日本人の美意識が大きく影響していると思います。
「雪月花」とは、気候現象の雪、天体の月、春に咲く桜の花ことです。季節が多彩な日本の自然美の代表的なものとしてこの三つが和歌の主要な題材になってきました。雪ま言うまでもなく白、桜の花は古代、山桜だったので、花弁は白色です。こうした雪と花の白色にひっぱられるように月も白のイメージで象徴されるようになった可能性があります。月が白いから雪や花と並ぶ風物となったとも考えられますが、いずれにしろ月の光を浴びたときに感じる澄んだ清澄な空気感が影響しているのは間違いなく、結果的に「雪月花」は、日本人が至高の色とする白色を3点セットに凝縮させたフレーズになりました。
右上の図をご覧ください。夜空に照る月と白色を強烈にイメージさせる「さらしな」という地名が、当地のスポットをすべて挟み、包み込むのです。千曲川は特に月の光を反射させ拡大させる役割を担っています。
上の絵は、平安時代に描かれた日本最古の「源氏物語絵巻」の一場面(鈴虫二)。中秋の夜、管弦の遊びしている都人(貴族)たちの姿を描いた部分を科学分析し、当時の色彩を復元したものです(NHK出版の「よみがえる源氏物語絵巻」から複写)。右上隅に月が見えますが、本の解説によると、絵の男性の顔には、ほかの多くの絵とは異なる特殊な白い絵の具が使われているそうです。ほのかな月の光に照らされた印影を帯びた光を表現するのが狙いと考えられます。この絵は平安時代の日本人が月の光に白色を見ていた証拠でもあります。画像をクリックすると、PDFが現れ、印刷できます。