138号・さらしなの里に「575の会」発足

 さらしなの里(旧更級郡更級村、現千曲市更級地区)に、「575の会」(仮称)が誕生しました。「575」というのは俳句のリズムを言うときに使う言葉です。かつてさらしなの里でも俳句を楽しむ人たちのグループがあったので、「もう一度そうした集まりを」というのが発案者の思いだったのですが、俳句というと季語など決まりごとがあって敬遠しがちな人が多いので、とにかく575のリズムで思ったことを言葉で表現する、表現したい人たちの集まりにしようということになりました。初回の集まりが2011年5月21日夜、さらしな堂の事務所でありました。
  集まったのは更級地区在住の六人。私が司会役を仰せつかり、ホワイトボードに皆さんが作った句を書いていくことにしました。初めての機会なのでみなさん遠慮していましたが、一人の方が次の句を披露しました。
 酒のんで便所で爆睡のんだくれ
 お子さんが自分、つまり父親の姿を見て作ったそうです。「『便所』よりも『トイレ』の方がいい」「のむ」は漢字の「呑む」の方が、「のんだくれ」の感じが出るなどと意見を出し合いました。そしてこの句がきっかけになって次々とみなさんが披露し始めました。
 アカシアに蜂と蜂飼い踊ってる
 千曲川の河川敷はちょうどアカシアの花が満開。この句を披露した方は養蜂が趣味で、この日の昼間、蜜を搾ってきたのだそうです。「アカシアに」ではなく、「アカシアで」の方がいいのではという意見も出ましたが、やはり「に」の方が、蜂と養蜂家がお互いに蜜をめぐって闘っている感じが出るという意見が出ました。続いて
 山里の春を味わう蕗蕨
 この句の作者は料理が得意な方です。また別の方が
 夕暮れて寄り集まりしさらしな堂
 「575の会」の初めての集まりの様子を即興で読んでくださいました。水が入ったばかりの姨捨地区の棚田の風景を見てきた別の人は、二つの句をセットで披露しました。
 水を得て鏡の中の田植えかな
 あの田にて己の本心見てみたい
 ちょっと意表を突く大胆な句も出ました。
 さらしなやああさらしなやさらしなや
 日本三景の一つ宮城県・松島の景観の素晴らしさが読まれた「松島やああ松島や松島や」の句にひっかけ、さらしなの月のすばらしさを言葉にしたということでした。
 東日本大震災にちなんだ句も出ました。
 がれきと言うなせめて照らせよ赤い月
 赤い月は、ほこりがある夜によく現れると誰かが言うと、それなら被災地にぴったり、迫真性があると盛り上がりました。
 何かもやもやしているときにその気持ちを言葉にでできるとすっきりします。ちょっとした感動でも短い言葉にまとめられると感動はさらに増します。みなさんから出された句を声に出して読み上げるとさらに楽しかったです。終わってみればみんな俳句というよりは川柳の気分だったと思います。途中からアルコールも入った懇親会になり、句会は続いたのですが、酔うほどに句がシンプルになりました。一人が作った句をいくつも読むのとは違った、みんなの句を鑑賞し合う面白さがありました。出された句は消さず、すべてホワイトボードに残しました(上の写真)。
 最後に出た句が「バス停の大谷商店ありがとう」だったのはうれしかったです。さらしな堂の事務所は昨年10月31日に閉店した大谷商店(更級小学校入り口交差点)を改装したもので、この日がさらしな堂の事実上のオープニングでした。大谷商店の場所は50年前の創業時、川中島バスの利用者の多くが目的地とする姨捨駅と善光寺(長野市)、戸倉上山田温泉のちょうど分岐点でバス停がありました。「バス停の…」の句はそのことを踏まえたものです。
 句会後の懇親会では、音楽グループ「さらしな棚田バンド」のメンバーで芝原区在住の中村洋一さんが、閉店をきっかけに作った歌「バス停の店」(右に掲載)をウクレレの演奏で披露してくださいました。中村さんは子供のころ、新聞配達で貯めた小遣いで母の日のプレゼントを買いに来たことなどを思い出し作ったそうです。
 少し余談になりますが、大谷商店開設の前は、近くに雨風がしのげる箱型のバス待合所があり、その役割を出店に際し、店舗に併設したことから、店自体が「ボックス」(英語で箱の意味)と呼ばれました(右上の写真)。小屋型の待合所は他地にもたくさんありますが、ボックスの呼び名はないようで、理由は昔、姨捨が観月の名所として今以上に全国に知られ、多くの都会の人がやってきて温泉に泊まったことから、旅人が山と平地の境にあるこの小屋のバス停を「ボックス」と西洋風に呼んだのが始まりではという説も披露されました。
 さらしな堂も、さらしなの里の入り口なので、ここに寄れば「さらしな・姨捨」のことはなんでも分かる場にするのが目標です。オープンスペースもあり、ミニコンサートなど小さな集会も可能です。中村さんの歌をお聞きになりたい方はCDがあるので大谷までどうぞ。「575の会」ではメンバーも募集しています。それれから最初の句「酒のんで便所で爆睡のんだくれ」を披露したのは、中村洋一さんです。

 画像をクリックすると、PDFが現れ、印刷できます。