百白百首6 出征の途上、雪の降りぶりを頼りに

波の間に降り込む雪の色呑みて玄海の灘今宵荒れたり 宮柊二

宮柊二 (みやしゅうじ、1912~1986) さんは、私も会員である短歌結社「コスモス短歌会」の創設者。日中戦争さ中の昭和14年(1939)、兵士として九州の博多湾を船で出て中国大陸に渡るときに詠んだ歌です。

私にも福岡での勤務経験があるので、博多湾の北に広がる玄界灘の冬の様子は想像できます。九州でも博多の冬はかなり寒く、雪が降ることがあります。暖流の対馬海流の影響で水蒸気と強い風が起こりやすいといわれています。

荒天の海は大きな波が幾重にも浮き沈みします。その波の間に下りてきた雪が姿を消すさまに、宮さんは心を動かされました。歌には「白」の言葉は出てきませんが、波が「雪の色を呑む」という動きのある表現によって、その場面がクローズアップされ、波の黒さと雪の白さのコントラストが際立ちます。

生きて戻れるかわからない旅のはじまり。その不安を増幅するような荒天の海。雪は波の間に吞み込まれても、天から降り続けます。その白さを頼りに、精神の安定を得ようとしていたのではと想像しました。

★白の力を借りて自分の思いを表現した歌を「歌にみる白の力」のコーナで連載しています。