心がけ30 多くを学んだ自主制作、自費出版

 21世紀初め、田中康夫さんが県知事になったとき長野支局に赴任し、東京本社に戻ってから「姨捨の男」という本を自費出版しました。20年ぶりに故郷信州で暮らした冠着山(姨捨山)の麓の男が主人公の物語や、幼い子どもたちとの暮らしを短い言葉にした短歌など、40歳ごろの自分の来し方の総括でもありました。この本をつくることで多くを学びました。
 「姨捨の男」は業務用の編集ソフトを初めて使い、レイアウトから表紙デザインまですべて自分で行い、印刷製本だけ外注しました。初めての出版物らしい体裁になったものです。自分を知ってもらう良いツールでもあると思い、名刺代わりに受け取ってもらうこともありました。国立国会図書館など出版物を収集保存している施設にも送りました。
 贈呈先の施設で、わたしの本を見つけた業者から連絡がありました。商業出版の体裁の本に仕立て直し、東京都心の大手書店の電子掲示板に宣伝文を流して販売したいと言います。ただ、費用はわたしが全額(100万円以上だっと記憶しています)負担する必要があるとのことでした。制作部数は300、受け取る部数は数十部だっと思います。
 断りました。手数料稼ぎが狙いだと感じました。「姨捨の男」は、キャッチーな宣伝文句がつけやすい内容だと自分でも思いましたが、当時は別の本の制作で資金を使っており、負担できる金額ではありませんでした。当時は介護保険の導入を機に、本格的高齢社会の到来がメディアのテーマになった時代で、「自分史」という言葉もよく使われ、本にして出版する人がたくさんいました。
 「姨捨の男」を印刷製本してくれた会社は、いくつかの同業社を訪ねて選んだ会社です。ここなら信頼できると思いました。一つの本を作るときに必要な経費をはじめ、制作実務の実際や出版にまつわるさまざまな思いや思惑を知ることができました。

 ★「姨捨の男」については「23 物語にした思い」もご覧ください。