漫画家・絵本作家のすずき大和先生がこのほど絵本「ばしょうさんとおばすて山の月」(左の写真が表紙)を出版しました。「ばしょうさん」とは、「古池やかわず飛び込む水の音」の俳句や紀行文「奥の細道」で知られる松尾芭蕉のことです。芭蕉は当地の「さらしなの里・姨捨山」の月を見るためだけに旅をしたことがあり、絵本は、その旅の様子を記した芭蕉の紀行文「更科紀行」を原案にしています。
教育委員会推薦
更科紀行の内容と当地との関係で最も縁の深い芭蕉の俳句は「俤や姨ひとりなく月の友」です。この句は長楽寺(旧更級郡八幡村、現千曲市八幡地区)での観月体験がもとになっているのですが、意味については解釈が難しいとされていました。
しかし、この句が長楽寺での最初の句碑「面影塚」の建立につながり、信州に芭蕉の作風が広まる大きなきっかけになったわけですから(詳しくはシリーズ80参照)、この句に正面から向き合わなければ「更科紀行」を読み解いたことになりません。この課題に、空間や間の使い方に独自の作風があるすずき先生が迫りました。
「更科紀行は千曲市の宝。形式にもとらわれず自由な心の趣を表明したもので、楽しかった思い出を書き留めたエッセーと言ってもいい。だからこそ、芭蕉の本音があり、魅力的なんです」とすずき先生。
そんな芭蕉の世界に、子どものうちから触れてもらうことが、子どものためにも千曲市のためにもなるのではないかという発想から、絵本の企画がスタートしました。
物語は、江戸のまちにすばらしい俳句をつくる「ばしょう」という人がいましたと始まります。ばしょうさんは弟子の「えつじん」と「ごんしち」と一緒に「さらしな・姨捨」の中秋の名月を見るために旅に出ます、怖い体験をしたり、面白いお坊さんに出会います。途中の街道沿いの風景はもちろん、「さらしな・姨捨」の眼下に広がる千曲川、稲穂、さらに月が現れる鏡台山の光景が大胆な視点で色彩豊かに描かれます。
そしてばしょうさんは念願の姨捨山に到着すると、特別な人に出会います。それは俳句の道に精進するあまりに死に目に会えなかった……。芭蕉が当地での月見に込めた思いが分かりやすく感動的に描かれ、親子、祖父母とお孫さんで読んでほしい内容です。千曲市も絵本化の企画に賛同してくださり、出版に際しては教育委員会から推薦をいただきました。市内の全小中学校、幼稚園・保育園にも配本してくださることになっています。
単行本も
すずき先生は福島県伊達市のお生まれです。「ことわざ絵本」「いちりんじいこ」など多数の著書があり、海外でも人気があります。芭蕉をテーマにした作品はほかに、日本漫画家協会賞特別賞を受賞した「まんが紀行 奥の細道」(上下巻)と、単行本「まんが 松尾芭蕉の更科紀行」があります。
単行本「まんが松尾芭蕉の更科紀行」は、「更科紀行」をすずき先生が独自の解釈で180ページの読み物に展開したものです。芭蕉が当地にやってきて320年となる節目の2008年に出版しました(さらしな堂発行、河出書房新社発売)。「更科紀行」の原文のほか芭蕉が「さらしな・姨捨の月」にあこがれた理由についての解説も掲載しており、「絵本でさらしな・姨捨に興味を持ったら、単行本も手に取っていただければ」とすずき先生はおっしゃっています。
すずき先生は以前から当地に縁の深い方でした。千曲市稲荷山地区の「ふる里漫画館」は、同地区出身の政治風刺漫画の第一人者、近藤日出造さん(故人)の功績も顕彰する公共施設ですが、すずき先生は近藤さんと交遊があった縁から、同館の設立に尽力なさいました。同館が企画した昨年の「『月の都』まんがワークショップ」の講師を務めました(ワークショップの内容についてはシリーズ132参照)。千曲市の観光キャッチフレーズ「芭蕉も恋する月の都」と観光ロゴマーク「芭蕉三人衆」の制作者でもあります(同102参照)。
中央の写真がすずき大和先生です。しなの鉄道・戸倉駅の改札口に掲げられている千曲市の観光ロゴマークと一緒に撮影しました。右の写真は更級小学校(旧更級村、現千曲市更級地区)の図書館に設けられたすずき先生の著書を特集した本棚です。司書の細川まゆみさん(今春、千曲市立戸倉小に転任)が手にしているのが単行本「まんが松尾芭蕉の更級紀行」です。絵本「ばしょうさんとおばすて山の月」の制作に際して、細川さん、伊藤可主也校長先生(同、安曇野市立穂高西小に転任)から貴重な助言をいただきました。
絵本の発行元はさらしな堂、発売はしなのき書房。千曲市内はもちろん、全国の書店で買い求めることができます。インターネットでも販売しています。画像をクリックすると、PDFが現れ、印刷できます。